先日、ピアノの調律に伺ったお客様宅にて。

ありがたいことに毎年調律に呼んでくださるのですが、残念ながらお子様はピアノ教室をやめてしまったそうです。

話を聞くと、歌うことは好きでしょっちゅう何か口ずさんでいるみたいなのですが、ピアノ教室で習ったことを練習する作業に取り組むまでのハードルが高かったとか。

好きな曲がある、歌っている。お子さんのアクションから、直感的にこの子はピアノにハマれるはず、と思って、その子が好きな歌を即興で弾いてみたところ、向こうのお部屋で「おぅ!?」という反応が!お母様もそのリアクションを見逃さなかったみたいなので、「こっちおいで〜」と呼んでそのメロディを教えてみました。

音、指の動き、視覚的に見る鍵盤、など、音楽を判別する手段はいくつかあると思います。何回か繰り返しているうちに、この子の指の動きと、聞こえる音と、イメージする好きな歌のメロディがリンクしたみたいで、わかった途端に何度も何度も繰り返すようになりました。

わずか数分のことでしたが、私はとても大きな経験をしたと思いました。指をこれこれこう動かして聞こえてくる音が実は自分が好きな曲のメロディだったことを認識するまでを、この子が理解するまでのプロセスを目の当たりにしたような気がしました。

その後、お母様とテーブルでお茶をいただきながらお話をしている間も、その4小節のメロディを繰り返し弾いているのです。しかもオクターブを上下に移動しながら。そう、この「違うオクターブでも試しに弾く」ってすごく大事だと思います。

歌が好きならピアノも好きになるに違いない、それを確認できたように思います。すごく嬉しかった。

別のお客様とお話ししていたら、お子様は練習している曲を別のキーで弾こうとトライしているらしく、そんな小さな子がなんて大技に挑んでいるのか!とびっくりさせられました。お母さんは「いやいや、それは習ったこととは違うでしょ」というようなツッコミを入れたそうですが、そんな冒険はさせたほうがいい。子供の自由な発想に驚かされます。

南国ピアノ芸術を立ち上げて11年。多くのお子さんは進学や部活をキッカケにピアノをやめていき、沢山の成人した人たちは「私も小さい頃ピアノやってました!(でも今は弾けません)」という方々に多く会ってきました。中学校から英語が授業に入ってくるけど、喋れるようにはならない…。そんな感じだと思っていました。

だけど、その中学校からの英語の授業だけで喋れるようになったら、どんなに素敵なことでしょう。

何十万円ものピアノを購入していただいたのに、何年も調律させていただいたのに、ピアノ教室をやめた途端にピアノはそこにある黒い大きな物、に成り下がってしまうのをなんとか止めたい。いつもそう考えています。

そして、その解決の糸口を、あのお子さんのリアクションに見たように思います。

ピアノ調律師、販売店の役割を超えているかもしれません。人それぞれなんだから、いいじゃないか、といわれればそれまでですが、それでお客様に喜んでいただけるなら実践していきたいと思います。

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