ある奥さまからのご依頼でピアノの調律に伺いました。ピアノを弾くのはやがて90歳になるというおばあさん。話を聞くまでは全くわかりませんでしたが、ここ数年は認知症が進行しているとのことでした。調律後、そのおばあさんがそのおばあさんがピアノの前に座ると、右手で鍵盤を一つ二つと押し、音域を広げながら繰り返すと、今度は左手が鍵盤の上に乗り和音を奏でる。奏でるとはいっても、無造作に音を出しているのでどんな曲なのかは見当がつきません。しかし聞いているとテンポは一定で左手が伴奏で右手がメロディとも聞き取れます。そしてついには歌も歌い始めておばあさんのテンションマックス!

お母さんが言うには、ピアノの音を聞くことが良い刺激になるし、ご老人には鍵盤を押すという作業がなかなか体力を要するということで良いリハビリになるんだそうです。それにしてもおばあさんの歌うメロディは沖縄音階のように聞こえるし、ピアノも音楽的だし、めちゃくちゃしているようには見えませんでした。きっと若い頃弾いていた音楽を体が覚えているんだと思いました。もうその頃の思い出は無くなってしまったのかもしれないのに、彼女の中には当時の音楽が流れているなんて、なんだか少し泣けました。また、おばあさんのためにピアノの調律に呼んでくださったお母さまにも感謝です。

それにしても、調律している隣の部屋で、おばあさんとお母さんとおじいさん三人でユンタク(おしゃべり)しているときは笑い声が飛び交って賑やかで楽しそうでした。いつまでもお元気で。


修理工房のオーバーホールは張弦が完了!本体を組み立てたらアクションの修理に取り掛かります。